韓国で少なくとも95人が死亡した「加湿器殺菌剤」事件を巡り、韓国の2人の著名な大学教授が、製造メーカー側から金銭的な便宜を受けて、メーカーの意に沿った論文を発表した疑いが浮上。検察が捜査している。
聯合ニュースによると、ソウル中央地検特別捜査チームは5月4日午前、国立ソウル大学獣医学部の50代の教授を緊急逮捕し、この教授の研究室と、中西部の私立大学・湖西大学の60代の教授の研究室などを家宅捜索。実験日誌や研究記録が含まれたコンピュータのハードディスクなどを押収した。
5月2日、ソウルで謝罪会見したオキシー・レキットベンキーザー社の代表、アタ・シャフダー氏。発生から5年後にようやく謝罪したことに怒った遺族がつかみかかり、平手打ちを食らわせた。
韓国メディアが報じた経緯によると、イギリスの殺菌剤メーカーレキットベンキーザーの日本・韓国法人「オキシー・レキットベンキーザー」は、韓国政府の疾病管理本部が2011年8月に、加湿器殺菌剤を肺損傷のリスク要因と発表したことに反論するため、韓国で毒性学の権威だった両教授のチームに、原因物質とされたポリヘキサメチレングアニジン(PHMG)の吸入毒性試験を依頼した。両教授は、毒物学の分野で国内最高権威として知られる。
依頼を受けたソウル大の教授チームは3カ月かけて、妊娠したマウスと通常のマウスを使い、PHMGがどのような影響を与えるか実験した。教授は2011年11月14日、「妊娠したマウスの胎児は、15匹中13匹が死亡した」とする中間報告を、オキシー社に提出した。
しかし、オキシー社は教授に対し、妊娠したマウスの実験と、一般のマウスの実験を、別々の報告書にするよう求めた。対照実験の原則からすると異例の要求だが、教授はこれを受け入れ、2012年4月に別の報告書を作成。一般マウスの実験結果と「加湿器殺菌剤と肺疾患の因果関係は明確ではない」との内容が含まれていた。同社は一般マウスの報告書だけを正式に受け取った。
オキシー社に対する検察の捜査が本格化すると、同社は「因果関係が明確でない」とする後者の報告書だけを検察に任意提出したほか、この報告書をもとに、アメリカに本拠を置くコンサルティング会社に別の報告書作成を依頼。同社に対し遺族らが起こした民事訴訟にも反論資料として提出した。
オキシー社は、研究費としてソウル大に2億5000万ウォン(約2300万円)、湖西大学に1億ウォン(約920万円)をそれぞれ支払った。それとは別に、両教授の個人口座に数千万ウォンの諮問料も振り込んでおり、収賄や背任の疑いが持たれている。ソウル大の教授は、一部を私的に流用した疑いも報じられた。
5月2日、ソウルで謝罪会見したオキシー・レキットベンキーザー社の代表、アタ・シャフダー氏。
韓国日報の報道によると、韓国政府が「加湿器殺菌剤で肺の損傷がほぼ確実な」第1段階、または「可能性が高い」第2段階の患者は計221人。うち95人が死亡した。2013~15年に韓国政府が受理した被害件数は530人、うち143人が死亡している。
NGO「環境保健市民センター」がソウル大学と共同で実施した調査では、19歳以上の22%が加湿器殺菌剤を使用したことがあり、うち5人に1人が「呼吸器疾患など、健康被害があった」と答えていた。政府や民間の被害者調査は現在も続いており、被害者数は今後も増えるとみられる。
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